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大阪地方裁判所 平成10年(わ)5834号 判決

主文

被告人を懲役九年に処する。

未決勾留日数中二一〇日を右刑に算入する。

理由

【犯罪事実】

被告人は、女性の胸や陰部に直接触れるなどのわいせつな行為をする目的で、

第一(平成一〇年九月二一日付け起訴状記載の公訴事実)

平成一〇年八月三一日午前一〇時一五分ころ、大阪市城東区〈番地略〉MビルのA方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、

一  A所有の現金四〇〇〇円を窃取した

二  就寝中のA(当時二二歳)に対し、同女が熟睡していて抗拒不能であるのに乗じ、同女の陰部に手指を挿入するなどのわいせつな行為をした

三  Aと並んで寝ていたB(当時二〇歳)に対し、強いて同女の陰部に触れようとして、同女のズボンとパンティを一緒に掴んで膝の辺りまで引きずり下ろす暴行を加えたが、目を覚ましたAが悲鳴を上げたためその場から逃走し、その目的を遂げなかった

第二(平成一〇年一〇月五日付け起訴状記載の公訴事実)

平成一〇年八月五日午前九時二五分ころ、大阪市城東区〈番地略〉NビルC方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、就寝中のD(当時一八歳)に対し、同女が熟睡していて抗拒不能であるのに乗じ、同女の乳房に直接手で触れ、同室内にあったハサミで同女のパンティを切り裂いて陰部を露出させるなどのわいせつな行為をした

第三(平成一〇年一〇月二九日付け起訴状記載の公訴事実第一)

平成一〇年七月一日午前九時一五分ころ、大阪市城東区〈番地略〉○○E方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、就寝中の同女(当時一八歳)が熟睡していて抗拒不能であるのに乗じて、同女の着衣の上から乳房に手で触れ、同女着用のTシャツを胸の辺りまでめくり上げたが、目を覚ました同女が激しく抵抗し悲鳴を上げたためその場から逃走し、その目的を遂げなかった

第四(平成一〇年一〇月二九日付け起訴状記載の公訴事実第二)

平成一〇年七月一一日午前九時二〇分ころ、前記○○F方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、就寝中のG(当時一八歳)に対し、同女が熟睡していて抗拒不能であるのに乗じ、同女の着衣の上から乳房に手で触れ陰部に手指を押し当てて撫でるなどのわいせつな行為をした

第五(平成一〇年一一月二七日付け起訴状記載の公訴事実第一)

平成一〇年六月一五日午後三時五〇分ころ、大阪市東成区〈番地略〉TビルH方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、ベッドで寝ていた同女(当時一九歳)の着衣の上から乳房に手を当て、着衣をまくり上げようとし、これに気づいて目を覚ました同女に対し、同女の身体を跨いで馬乗りになりその顔面に自己の臀部を強く押しつけ、両手を掴んで強く押さえつけた上、着衣の中に手を差し入れて直接乳房を揉み、さらにパンティの上から陰部に手指を当てて撫でるなどの暴行を加えたところ、同女が極度に畏怖して抗拒不能の状態に陥ったことから、とっさに同女を強姦しようと企て、さらに同女に対し、パンティを引きずり下ろして脱がせ、両膝を掴んで押し広げるなどの暴行を加えて、その反抗を抑圧した上、同女を強いて姦淫した

第六(平成一〇年一一月二七日付け起訴状記載の公訴事実第二)

平成一〇年六月二二日午前八時三〇分ころ、大阪市東成区〈番地略〉T’ビルI方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、就寝中のJ(現姓I。当時二一歳)に対し、同女が熟睡していて抗拒不能であるのに乗じ、同女の着衣をずらして直接乳房を手で掴んで揉み、パンティの中に手を入れ直接陰部に指を当てて前後に動かすなどのわいせつな行為をした

第七(平成一一年一月二五日付け起訴状記載の公訴事実第一)

平成九年七月一四日午前九時過ぎころ、前記TビルK方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、就寝中の同女(当時一九歳)に対し、同女が熟睡していて抗拒不能であるのに乗じ、同女の着衣内に手を差し入れて直接乳房を揉み、同女のパンティの中に手を入れ、直接陰部に指を当てて前後に動かし、臀部を撫で回すなどのわいせつな行為をした

第八(平成一一年一月二五日付け起訴状記載の公訴事実第二)

平成一〇年三月一九日午前九時三〇分ころ、前記T’ビルL方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、

一  就寝中の同女(当時一八歳)が熟睡していて抗拒不能であるのに乗じて、同女の胸や陰部に直接触ろうとしたが、同女が着衣をしっかりと着込んでいたため、同女の着衣の上から乳房に手を当て軽く揉むなどしたにとどまり、その目的を遂げなかった

二  同女所有の現金二万円を窃取した

第九(平成一一年三月九日付け起訴状記載の公訴事実)

平成一〇年四月二二日午前八時四〇分ころ、大阪市城東区〈番地略〉の××O方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、就寝中の同女(当時一八歳)に対し、同女が熟睡していて抗拒不能であるのに乗じ、同女の着衣の上から乳房を掴んで揉み、さらに同女が着用していたワンピースの裾から胸の辺りまでをハサミで切り裂いて肌を露出させるなどのわいせつな行為をした

第一〇(平成一一年三月二九日付け起訴状記載の公訴事実第一)

平成九年四月四日午前八時三五分ころ、大阪市東成区〈番地略〉の△△P方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、そのころから同日午前八時四五分ころまでの間、同室内において、ベッドで布団を被って仰向けに寝ていたQ(当時二一歳)に対し、同女の身体を跨いでその上に馬乗りになり、そのまま体重をかけて身体を押さえつけるなどの暴行を加えた上、同女の着衣内に手を差し入れて直接陰部を撫で回すなどのわいせつな行為をした

第一一(平成一一年三月二九日付け起訴状記載の公訴事実第二)

平成一〇年七月二二日午前八時二〇分ころ、前記△△R方に、無施錠の玄関ドアを開けて侵入し、同室内において、ベッドで仰向けに寝ていたS(当時一九歳)に対し、同女の身体を跨いでその上に馬乗りになり、手で腹部を押さえつけるなどの暴行を加えた上、同女のパンティの中に手を入れて陰部に指を挿入するなどのわいせつな行為をした

ものである。

【事実認定及び法令の適用等に関する補足説明】

前記犯罪事実第一の三の「ズボンとパンティを一緒に掴んで膝の辺りまで引きずり下ろす」行為、同第三の「着衣の上から乳房に手で触れ、Tシャツを胸の辺りまでめくり上げた」行為及び同第八の一の「着衣の上から乳房に手を当てて軽く揉む」行為については、いずれも、それ自体がわいせつな行為であるとも見られるところであって、そうであるとするならば、犯罪事実第一の三、第三、第八の一の各所為は(準)強制わいせつ既遂罪を構成するとも考えられるところである。

しかし、検察官は、右各事実(当裁判所の認定事実と起訴状記載の公訴事実とは、若干の表現上の差異はあるものの、全く同一の事実である。)につき公訴提起するに際し、これらを(準)強制わいせつ未遂罪を構成するもの、すなわち、前記各行為はそれ自体はわいせつな行為ではないものとして法律構成している。そして、検察官は、その点の法律判断はなお維持する旨を公判廷においても表明しているところである。

もとより、認定事実がどのような罰条に該当するか、ある行為がわいせつな行為といえるかどうかの判断は裁判所の専権に属するところではあるが、右のような本件訴訟の経緯のほか、被告人及び弁護人も検察官の右法律評価を前提に起訴事実を認める旨陳述していること、右はわいせつ行為とは何かという規範的評価にかかるもので法律家の間においても判断が分かれうる事柄に関するものであること等に鑑み、さらには、右の各犯罪の既遂罪と未遂罪とはいわば大小の関係(包含関係)にあることや起訴便宜主義の趣旨にも照らすと、本件においては、あえて右各事実を(準)強制わいせつの既遂罪として処断するのは適当とは考えられない。

そこで、右各事実については、検察官の主張どおりこれが(準)強制わいせつ未遂罪を構成するものとして法令を適用し、それを前提として量刑判断をすることとした。

【量刑の理由】

一  本件は、女性の胸や陰部に触れる目的で、マンション内の居室に侵入の上、就寝中の女性の抗拒不能に乗じ、又は暴行を加えて無理矢理その身体に触れる等の行為に及び、さらには強姦行為にまで至った、準強制わいせつ六件、同未遂二件、強制わいせつ二件、同未遂一件、強姦一件及び侵入先の室内にあった現金を盗んだ窃盗二件の事案である。

二  本件は、約一年半の間に、右に見たとおり一二名もの年若い被害者に対して立て続けに敢行されたものであり、まさに連続わいせつ魔ともいうべき犯行である。

被告人は、白昼、得意先への配達途中に、独り暮らしの女性が住んでいそうなマンションに入り込み、ドアノブを動かしては無施錠の部屋を探し回り、ドアが開くと室内に侵入し、就寝中の女性を見つけるや判示のとおりのわいせつ等の行為に及んだものである。被告人は、目星をつけたマンションには何度も訪れて犯行の機会を窺い、一旦犯行に及んだ部屋に再度犯行に及ぶべく訪れたことや、男性が就寝してる傍らで犯行に及んだこともあり、その犯行ははなはだ大胆で悪質である。

被害女性らは、寝込みを襲われ、不穏な気配に目覚めるや、見知らぬ男の姿を目の当たりにして驚愕し、激しい衝撃と恐怖にさらされた上、眠っている隙を突かれて身体を弄ばれたこと等に強い嫌悪感や羞恥の情を抱いたのであって、その心が著しく傷つけられたことはいうまでもない。被害女性らは今なお不安にさいなまれる日々を過ごし、うち数名は、本件による精神的ショックが癒えないまま転居や学業断念を余儀なくされるなどしているのであって、被害者らの心に残された爪痕は深く、同女らやその親などが厳しい処罰感情を有しているのはけだし当然というべきである。

被告人は、少年時代に本件と同種の事案により保護観察に付され、さらに住居侵入等により少年院送致となった前歴を有するほか、平成六年三月には本件と同態様の住居侵入・強制わいせつ・同未遂罪により懲役一年八月・三年間執行猶予(付保護観察)の判決を受けた前科があって、家族の強い監視下での生活を送りながら、執行猶予期間中の平成八年ころから女子寮等への侵入行為を再開し、ほぼ連日のようにこれを繰り返し、そのような中で本件各犯行に及んだものであって、本件のような行為に及ぶことが習癖化しており、これらの事情に鑑みると、被告人の規範意識は著しく鈍麻し、その犯罪性向は極めて強固なものとなっているものと認めるほかはない。被告人はまさにこの種性犯罪の常習的犯罪者というべきである。

被告人の刑事責任は重大であるといわなければならない。

三  もとより、本件においても、被告人のため酌むべき事情を見いだすことはできる。すなわち、本件犯行の多くは熟睡している女性の抗拒不能に乗じる形でなされたものであり、これらに関する限り、被告人は自ら被害者の意思を制圧する積極的行動に出ておらず、被害者が覚せいすると暴行脅迫に及ぶことなく逃走していること、強制わいせつの各犯行についても暴行はそれほど強力ではないこと、強姦の犯行については、当初から強姦に及ぶことまでをも意図していたわけではなく、恐怖におののく被害女性の様子を見てとっさに犯意を生じたものであること、被告人は弁護人に蓄えのすべてを預けて被害弁償を依頼し、現に被害女性らの一部には慰謝料が支払われていること、捜査機関に対して本件各犯行をすすんで供述するなど反省の態度を示していること等の事情は、些かにせよ被告人に有利に斟酌すべきものとして指摘することができるところである。

四  しかし、さきに見た刑事責任の重大性に鑑みるとき、有利とすべき事情を最大限斟酌しても、被告人は厳しい処罰を免れない。そこで、主文のとおり量刑した次第である(求刑―懲役一〇年)。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川合昌幸 裁判官 二宮信吾 裁判官 伊藤寛樹)

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